Mong Tong インタビュ

Mong Tongは、ホン・ユー(洪御)とジュン・チー(郡崎)兄弟による台湾のデュオ。自らの音楽を「ディエンツーチン・ミュージック」 と表現し、福建語のポップスやロック、エレクトロニックミュージック、アンビエント、レフトフィールドなど、多彩なジャンルを取り入れたミステリアスなサウンドが魅力だ。そして、Sci-Fiやオカルトに加え、台湾の迷信や民間伝承にもインスパイアされたその世界観は、アートワークやMVにも反映されており、国内外でファンを増やしている。

2022年6月に、サイケデリック・ロックバンド、幾何学模様とともに欧州ツアーを敢行。同年11月28日には、幾何学模様のラストライブにゲスト参加し、満員の恵比寿ガーデンホールを大いに沸かせた。2022年のSXSWでは、Taiwan Beatsによるオンライン・ショーケースのメンバーとして抜擢されるなど、インターナショナルな活躍が目覚ましい。今回はそんな2人にインタビューを行い、その経歴や、ユニット結成の経緯、創作のインスピレーションやコンセプトまで、網羅的に語ってもらった。

ルーツはエクストリーム・メタル!Mong Tong結成の経緯

――Mong Tongが結成された経緯から教えてください。お二人は兄弟なんですよね?

ホン・ユー
「そうです。元々、2人でジャムをしたりはしてたんですけど、Mong Tongを結成するまでは、お互い別のバンドで活動していました。長らく住んでいる都市も違いましたし、一緒に創作するのは物理的に困難だったんです。」

――あなたはPrairie WWWWのメンバーでもありま
すよね?

ホン・ユー
「はい、ただオリジナルメンバーではないんです。加入したのは2018年なのですが、Mong Tongを結成したのは2017年なので、このユニットが先なんです。それ以前は、私はサイケデリック・ロックバンド、Dope Purpleを筆頭に、さまざまなバンドで演奏していました。兄は、スラッシュ・メタルバンドで活動していました。」

――メタルとは驚きです。Mong Tongの音楽とは一見かけ離れているというか。

ホン・ユー
「10年ほど前は、2人ともメタルを聴いていたんです。グラインドコアやハードコアなど、とりわけエクストリームなものが好きでした。ただ、当時の私は学生で、悩みも多く、別の大学に転入したのをきっかけに、人生を一新したいと思い、メタルを聴くのも辞めてしまったんです。」

――そこからどのようにMong Tong結成へと発展していったのでしょうか?

ホン・ユー
「具体的なきっかけはないですが、ジュン・チーとは、一緒に育ってますし、もともと音楽的な趣味も似ていたんです。メタルを聴かなくなってからも、本質的な趣味嗜好は似ていたというか、美意識を共有できたからだと思います。2015年以降、Scattered Purgatory(破地獄)や落差草原 WWWWといった台湾のエクスペリメンタル・ミュージックを聴いていて、台湾固有の文化を取り入れたその作品にインスパイアされたことが、Mong Tong結成へのきっかけとなりました。」

古いサウンドを組み合わせて、
新しい音楽を作りたい

―例えば、前回インタビューしたバンド、百合花(Lilium)は台湾の伝統音楽を取り入れたサウンドが特徴です。Mong Tongにもそういった要素はあるのでしょうか?

ホン・ユー
「伝統音楽の要素はないと思いますね。使っている楽器や機材のみならず、作曲のベースとなる理論も西洋ですから。百合花(Lilium)のリン・イーシュオは台湾の伝統音楽を学んできていますし、本当の意味で、台湾の音楽を作っていますが、私たちはいつも『psuedo-Taiwanese music(偽の台湾の音楽)』を作っていると感じます。」

――あとはどこかノスタルジックというか、ビンテージ感もありますよね。

ジュン・チー
「そうですね。私たちは例えば、『シンセサイザー』ではなく、古いキーボードサウンド使っているんです。ヴィンテージなサウンドメイクにこだわっているからかもしれません。」

ホン・ユー
「私たちは古いサウンドを好んで使いますし、それらは多くの場合ハイファイ(高音質)ではありません。けど、組み合わせることで新しい音楽になるんです。」

――音楽のみならず、台湾のカルチャー全体から得ているインスピレーションもありますか?

ホン・ユー
「台湾の伝統的な葬儀にはインスパイアされてますね。バンドが演奏していたり、パレードやダンス、時にはストリップまで行われるなど、とても賑やかなんです。あとは、泣く人を雇ってたり。葬儀で泣くことを生業とする人たちがいるんですよ。私たちはこういった、ある種『奇妙な』慣習に幼い頃から触れてきましたが、都会に住む台湾人はこれらを『田舎の慣習』として嫌う傾向があります。私たちの両親もそうでした。けどそのおかげで、むしろそこに魅力を感じる、客観的な視点が育まれたのかもしれません。昔はエクストリームなメタルを聴いていましたが、最近は台湾のこういった環境自体が『エクストリーム』だと感じています。」

――YouTubeなど、視覚的な情報からも音楽のインスピレーションを得ているんですね。

ホン・ユー
「はい、あとはゲームや古い映画など。表現形態にこだわらず、さまざまなアートからインスピレーションを得たいと思っています。」

ジュン・チー
「『羅生門』や『切腹』など、日本の侍映画は好きですね。『荒野の七人』から『スター・ウォーズ』まで、影響を受けている欧米の映画は多いですし。」

風刺や皮肉もアート。
全ては文化であり、恥ずかしがる必要もない

――MVも自分たちで制作されているんですよね?
ホン・ユー「制作というほどのものではないのですが、ニュース映像を素材に自分たちで編集したものです。台湾のニュースはドラマティックで、大げさなので映像だけで十分見応えがあるんです。」

――けど、Mong Tongの音楽と組みわせると、そのドラマチックさを皮肉っているかのようにも感じられますね。
ホン・ユー「そうですね。私たちは風刺や皮肉もアート表現の1つだと考えています。MVを見て『小馬鹿にしている』と感じる人も実際いるようです。あるいは、先ほど話した台湾の葬儀のように、台湾にとってマイナスイメージだとみなす人もいるかもしれません。けど、これが台湾のリアルであり日常なんです。そして、全ては文化ですし、恥ずかしがる必要もない。これは私たちが音楽のみならず、すべての表現を通じて伝えたいことでもあります。」

――ライブを行う場所も斬新ですよね。先日SNSで結婚式で演奏している動画を見て驚きました。WEPRESENTのインタビュー で「慣習に囚われない場所で演奏することを目指す」とも発言されているように、自分たちの音楽をどこで聴かせるか、という点でも実験的ですよね。
ホン・ユー「あれは私が参加するエクスペリメンタル・ロックバンド、Prairie WWWWのメンバーの結婚式だったんです。」

――Mong Tongが演奏する結婚式というのもユニークでいいですね。反応はどうでしたか?
ホン・ユー「あんまり良くなかったですね。出席した友人によると、トイレで誰かが〈ナイトクラブで聴く音楽みたいで、好みじゃない〉と話していたようです(笑)」

――シュールではありますよね(笑)アーティストは基本的には、観客には自分たちの音楽をしっかり聞いて欲しいと考えているものだと思います。ライブで、観客の注意を引くために心がけていることはありますか?
ホン・ユー「観客のことは特に気にしていません。むしろ私たちが自分たちの音楽を気に入ってくれるTA(ターゲット・オーディエンス)を探しているので、 (音楽が)気に入らなかったら、無理に聴く必要はありません。」

――だいぶチルな姿勢ですね(笑)
ホン・ユー「そうなんです。もともとは自分たちのために音楽をやってたわけですし。ただ、今回のヨーロッパツアーで感じたのは、海外のTAを見つけるためにも、自分たちのジャンル名を伝えることは重要だと感じました。」

――Mong Tongのジャンルについてなのですが、幾何学模様とライブをしていますし、イメージ的にサイケデリック・ミュージックとみなす人は多そうですが、お二人はどう感じていますか?
ホン・ユー「実際、サイケデリック・ミュージックの要素は少ないと思います。ワールド・ミュージックやエクスペリメンタル、レフトフィールド、あとロックも入ってますね。あらゆるものをミックスしてしまうのは、台湾人らしいアプローチだと思います。なんでもありなんですよ(笑)」

――Mong Tongというバンド名の由来についても教えてください。中国語(台湾華語)での名前もないんですよね。
ホン・ユー「これに中国語を当てはめようとすると、複数のパターンが考えられます。そして、その他の言語でもMong Tongと読む言葉は存在するでしょう。私たちは音楽を通して何かを伝えようとしているわけではないし、アーティスト名も好きに解釈してほしいと考えています。特に英語圏の人々は典型的な中国語の響きだと感じるのではないでしょうか。」

ヨーロッパで感じた、
台湾のオーディエンスとの違い

――2022年6月に幾何学模様のオープニングアクトとして、ヨーロッパツアーも行いましたよね。パリやベルリンなどの都市を巡ったわけですが、各地での反応はいかがでしたか?
ホン・ユー「全体的に台湾よりいいと感じました。一緒に写真を撮りたがったり、私たちの経歴やコンセプトについても興味があるようでしたし。」

――台湾のオーディエンスは違いますか?
ホン・ユー「台湾人はシャイなので、いいと思ってても伝えないことが多いんです。逆に、ヨーロッパの人たちはダンスしてたり。そういう音楽でもない気がするんですけど(笑)けど、分かりやすい反応の方が嬉しいですよね。自分たちの音楽に対して人がどう思い、どう反応するのかようやく分かった気がしました。台湾だと〈良い〉としか言わない人がほとんどなので。けど、ディスられてもいいので、本音が聞きたいんです。」

――ヨーロッパのオーディエンスは台湾の文化にも関心を持っていると感じましたか?
ホン・ユー「はい、特に今は中国との関係について、世界的に報じられていますから。ほとんどの人が台湾を知っていましたし、関心も高かったです。というのも、2019年にPrairie WWWWとしてヨーロッパ公演を行った際は、台湾の認知はほぼゼロでした。唯一知っていた人は、オンラインゲーム『リーグオブレジェンド』のチャンピオンシップで優勝したのが台湾のチームだったから、という理由だったんです。なので、状況は本当に変わったと思います。」

――海外での受けがいいというのは理解できます。音楽的にも視覚的にもアジアらしいですし、Sci-Fiやオカルトへのオマージュから感じられる、ある種の奇怪さや禍々しさも魅力だと思います。ヨーロッパのオーディエンスはどんなところに魅力を感じていたと思いますか?
ホン・ユー「やはり、見たことのないフレッシュなアートに触れたいんだと思います。なので、アジアのアーティストにもチャンスはあると感じました。」

大切なのは様々な音楽に触れ、独自のスタイルを確立させること

――ホン・ユーが作成した、福建 ポップスとディエンツーチン・ミュージックのプレイリストも面白いです。こういった音楽にもインスパイアされていることがうかがえました。
ホン・ユー「そうですね、とはいえ真似やサンプリングはしたくないと思います。例えば『食』にしても、台湾は海外に学び、独自の食文化を発展させてきた歴史がありますし、それを音楽でやりたいと思ってるんです。」

――Mong Tongの楽曲制作にも興味があります。こだわっていることはありますか?
ホン・ユー「DAWではプリセット(あらかじめ設定されているサウンド)を極力使わず、オリジナルなサウンドメイクにこだわっています。ビートもアフリカ系のパーカッションサウンドを使ってたり、よくあるドラムサウンドではないんですよね。あと、ライドやクラッシュを使ってないのもポイントかもしれません。そうすることで抑揚が減り、曲調がフラットになるんです。そして代わりに他の音を加えることもできる。」

――他のアーティストとのコラボレーションについてはどうお考えですか?例えば2022年5月29日にリリースされた「怪譚之四季故事」は、複数の語り部をフィーチャリングしたオーディオブックという異色のコラボレーションでしたよね。
ホン・ユー「台湾では80年代から90年代にかけて、司馬中原や陳為民といったアーティストたちが、幽霊についてのオーディオブックをリリースしていたんです。 本作はそういったカルチャーへのトリビュートです。フィーチャーされているのは、私たちの家族や友人で、彼らに自分たちが書いた物語を語ってもらってるんです。まずは音声を録り、そこに私たちが音楽を加えていく、というプロセスで制作されてます。なので音楽アルバムというよりは、OST(オリジナル・サウンドトラック)ですね。内容は怖いというより、不思議な感じです。日本のテレビシリーズ『世にも奇妙な物語』からインスパイアされたんです。オーディオブックなら手軽ですし、 『誰だって物語が書ける』ということを伝えたかったんです。」

――普段はどんな音楽を聞いているんですか?
ホン・ユー「私たちはオタクなので、「色々聞いている」としか言いようがないのですが(笑)最近はトニー・アレン(Tony Allen)が好きですね。2018年にリリースされた、ジェフ・ミルズ(Jeff Mills)とのコラボレーションアルバムがお気に入りです。ニコラス・ジャー(Nicolas Jaar)のユニット、DARKSIDEや、サン・アロウ(Sun Araw)といったアーティストたちからは大きな影響を受けてます」

――お二人はメタルのバックグランドがありますし、ロックバンドも聴いていますか?
ホン・ユー「クルアンビン(Khruangbin)やキング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード(King Gizzard and the Lizard Wizard)はかっこいいですね。ただ、最近はロックにはあまり魅力を感じていません。定型化されているというか、全部同じに聞こえることがあるんです。」

――それらのバンドが「ロックか否か」にも議論の余地がありそうです。そもそもロックの定義も曖昧かもしれませんね。
ホン・ユー「まず、音楽の目的が『創造』なのか、アーティストは本質を問う必要があります。それに『ロックスターになって注目を集めたい』と思う人がいたとして、その作品が独創性ゼロで注目に値しなかったら、本末転倒ですよね。大切なのは、これだけ音楽が溢れた時代の中で、ありとあらゆる音楽に接して自分独自のスタイルを確立させることだと思います。」

――来年に向けてニュースはありますか?
ホン・ユー「新しいアルバムがリリースされるのと、ワールドツアーも実現したいです!」

今回のインタビューは台湾現地で行われた。待ち合わせ場所として指定されたのはジュン・チーが営むテラリウムショップ。路地裏にひっそりと佇むその店は、白を基調とした内装で、大小さまざまのテラリウムが美しく陳列されており、あたかもSci-Fi映画に出てくるラボのようだった。そこでジュン・チーは黙々と苔の手入れをしていたのだが、その様子が、Mong Tongの世界観が提示するいかがわしさや怪しさといった要素と無縁で、逆に印象的だった。

その後、ホン・ユーが合流し、カフェへと向かう。2人とも物腰がとても柔らかく、フレンドリーで、楽曲のコンセプトやインスピレーションについて熱心に語ってくれた。それでも時折、辛辣な皮肉をサラッと繰り出し、ハッとさせる。そんなつかみどころのなさも彼らの魅力だろう。既に多作な彼らが次にどんなアートを提示するのか楽しみだ。

Mong Tong’s
BEATs